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黄昏の交差路<< Novel << TOP

†Novel

†Meria's Side . . .

 シュメリアとアルフレイドのふたりは、手配されていた馬車に乗り込んで外の景色を眺めていた。

 アルフレイドは、口が開けば言葉が出てくるが、あまり自分から好んで話したりはしないようだ。その点はシュメリアも心得ており、窓の外へ流すような目線を送るアルフレイドの考えを阻害したりはしない。
 もっとも、シュメリアはあまり出ることのない、首都の郊外の景色にこそ思いを馳せており、風で揺れる長髪を手で押さえながら見慣れない景観を楽しんでいる。

「メルバレンの外が珍しい?」

 馬車の外側に送った目線はそのままに、アルフレイドはシュメリアに問いかける。

「はい、こうして見ていると、街の外に出るのも久しぶりだなぁ、と思いまして」
「どのくらい?」
「そうですね、半年ぶりくらいですかね」

 アルフレイドは返答もうなずきもせず、短く問いかけた。
 シュメリアは、そんな絶対者《アブソリューター》の一員で、先輩である青年の横顔をうかがう。

 絶対者というものは、シュメリアたちが在籍している施設での称号であり、そのなかでも強力な能力を持つものだけに与えられる、最高峰の称号である。
 絶対者の称号を持つものは全員でおよそ十数人おり、この首都メルバレン内にいる人数はそのなかの七人。さらに、そのうち二名がこの場にいる。シュメリアとアルフレイドである。

(わたしの絶対者としての能力は純粋に攻撃向きだけど……アルさんの能力は絶対癒傷《アブソリュート・リカバー》。大怪我を負ったとしても、瞬く間に傷を塞いでしまう能力。たしかに戦闘向きじゃない)

 しかし、彼の本質はそれだけではない。普段は気の抜けるような振る舞いを繰り返しているが、非常時には冷静でいて的確な状況分析ができ、まるで軍師のように指示を出す。初めてその様子を見たときは、あまりのギャップに他人の空似であって欲しいと願ったほどだ(普段の素行と違いすぎて現実が認められなかった)。

(だけど……本当にそれだけ? 回復が早いというだけなら周囲にもたくさん候補はいるし、指揮官としての能力も唯一無二というレベルでもない気がする)

 そして、シュメリアをこの場に連れてきた理由。非常時のため、というなら護衛を雇えばいいものを、わざわざ数少ない絶対者のひとりを選抜。なにかある、と考えないほうがおかしいというものだ。

(やっぱりはじめにアルさんが言った、監視のため? それとも単にいつもの道楽?)

 わからないな、とシュメリアがもう一度深いため息をつくと、ふと気配を感じ、目線を上げた。そこで見たのは、息もかかりそうなくらいの距離にあった、アルフレイドの顔だった。

「わっきゃああああぁああぁあああッ!?」

 思わぬ事態に、シュメリアは目を見開きながら距離を取ろうと後ろに飛び退いた。木製の座席に身体をしたたかに打ちつけたが痛がる様子も見せず、彼女の一連の事態を面白そうに眺めていたアルフレイドに指を指しながら、少女は狼狽している。

「な、なななにしてるんですかッ!?」
「ん、突然下を向いて考え込み出したから、邪魔をしたら悪いなぁと思ってね。それで黙ってメリアを観察してたんだけど」
「なにも言わずにひとを凝視するのはやめてください!」
「ならば許可がいるのかい? 弱ったな、一日に何回許可を取らなきゃいけないんだ」
「今までずっとそんなことしてたんですか!?」

 背筋を指で這われるような感覚を覚え、反射的に身をすくめてアルフレイドから距離を置いたシュメリア。アルフレイドは乾いた笑いを洩らしながら、また窓の外の風景に目を落とした。

「――抗うものと抗えぬもの」
「ん、なにか言いました?」
「なんでもないさ。なんでも」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声でアルフレイドはなにかを呟いた。
 シュメリアはそれを訝しげに感じながらも、なにも言わずに自分も窓の外に視線を投げかけた。

 そのまま、不規則に訪れる小刻みな縦揺れが眠気を呼び込み、いつの間にかまぶたを落としていた。

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