†Novel
†Meria's Side . . .
アルフレイドは頼りにならない。シュメリアはそう結論を下して、村のなかを歩いていた。時刻はもう夕刻にすっかり変わっており、もうしばらく待てば宵闇に包まれることだろう。それまでに、少なくとも情報収集はすませておこうと思い、そう意気込み立った。
周囲にはすでにまばらとなった人影、豪奢ではないがしっかりとした木造の家々、そして、遠くに見える作物の群れは、場所によって作物が刈られている。今は収穫時期なのだろうか。
(あんまりこういうところには来られないから新鮮だなぁ)
見慣れぬ景色に心を弾ませながらシュメリアは辺りを歩いていた。もちろん、先ほどアルフレイドに楯突いた建前、やることは心にとどめているが。
そんな折、ふと優しそうな母親と、その子どもと思わしき少年とのやり取りが目に入った。
母親はところどころ土に汚れた少年の衣服を見て、微笑みながら少年が話す言葉に耳を傾けている。少年は大きく身振り手振りを交えながら話すが、大きく変わらない母親の反応に少々不服そうだ。それでも、母親の差し伸べた手にはなにも言わずに手を伸ばし、ふたりとも笑顔で扉の奥へと消えていく。
その一連の様子に、シュメリアは胸に小針で刺したようなちくりとした思いを覚え、わずかに落としたその肩にふと、置かれる手があった。
「アルさん……?」
「どうしてそんなところに突っ立ってるんだ」
見れば、そこには先ほど突き放すようなことをいってしまったのに、気にも留めない様子でアルフレイドが立っていた。
「いえ、ちょっと両親のことを思い出してしまって」
「故郷のご両親のこと?」
ついさっきの出来事なのに、目の前の青年は相も変わらない優しそうな声音で話しかけてくる。それを思うと肩肘を張るのが面倒になってくる。
アルフレイドという青年はそういった雰囲気のようなものをまとっている。ひととの間に軋轢があっても、いつの間にかまた距離を詰めて話している、ちょうど今のように。
「手紙などではやり取りするんですけど、やっぱりたまに会いたくなりますね。今もちょっと懐かしいな、って思ってました」
「そうか」
アルフレイドは短く答えて、シュメリアの頭をわしゃわしゃと撫でる。髪の毛が逆立つのもお構いなしだ。だが、痛んだ傷口が少々和らいだような、そんなふうに思えた。
「あの、アルさん」
「ん?」
シュメリアは先ほどのことを謝罪しようとアルフレイドに声をかけてみる。青年は撫でる手を止めてこちらに視線を合わせ、シュメリアと向かい合うような体勢になった。
(うぅ、やっぱり面と向かっていうとなると恥ずかしい……)
逡巡し、目線をあちらこちらにさまようこと数十秒。ようやく意を決して口を開きかけた。しかし、それよりも先にアルフレイドが口を挟み、
「ところで、村のひとに聞き込みはしなくてもいいのかい?」
という、青年のひとことに、中途半端に口を開いた格好で固まったシュメリア。ふと気がつけば、まばらだった人影はすでに数を残さぬものへとなっており、あたりもとうに日差しは沈み、夜独特の静寂が周囲を包もうとしていた。
「ずいぶん意気込んでたから、もう終わっているものだと思ってたけど、どうだった?」
「あ、わ、あぁっ!?」
(どうしよう、さすがに夜にもなってお邪魔をするのも気が引けるし、だって農村の方たちって朝も夜も早いんじゃなかったっけ。月が沈むと寝て、日が昇ると起きてっていう生活だったって聞いてたんだけど、でも必要なことだからやっぱり訊いておかなきゃ……)
そんなシュメリアの慌てようを眺めていたアルフレイドは、「それじゃ村のひとが噂していた場所に行ってみようか」などと、平然と言ってのけた。
その言葉を聞くまで頭を抱えていたシュメリアは、何か違う国の言葉で話しかけられたかのように、目をしばたたかせた。
そうしてしばらくしたのち、踵を変えて鼻歌交じりに歩き出した青年の背後に向かって叫び声を上げる。
「知っていたなら言ってくださいッ!」
後ろを振り向かずにひらひらと手を振る青年の耳には聞こえてはいるが届いてはいないだろうが。シュメリアはそう思うのだった。